「ボクシングはスピードとタイミングの芸術だ。」これは、昔私が所属していたボクシングジムの壁に貼っていた言葉です。
私は17歳の頃、腕っ節の強さだけに憧れてボクシングジムの門を叩きました。それから毎日この言葉を眺めながらトレーニングを行ううちに、私の中でボクシングが「ただのどつき合い」から「スポーツ」に変わっていったことを懐かしく思います。ボクシングは1人の様に見えて、周りの協力無しではできないし、力だけでは試合に勝てません。周りの人や練習に対する真摯な気持ち・厳しい練習で培ったスピード・タイミング・間の取り方等の技術が備わってからこそ初めて試合に勝つことができるという、非常に奥の深いスポーツです。
先日、IBF(国際ボクシング連盟)のダブル世界タイトルマッチがありました。ミニマム級の高山勝成選手は見事に二度目の防衛を果たしました。井岡一翔選手は残念ながら敗れて三階級制覇とはならなかったのですが、非常に才能豊かな選手ですので必ずやリベンジを果たしてくれると思います。
近年、日本のボクシング界は過去に見たことがないほど多くの才能豊かな選手に恵まれております。昔では日本人がボクシングの本場ラスベガスで試合をすることなど不可能だと思われておりましたが、最近になり西岡利晃選手がその実力を認められ日本人選手で初めてラスベガスで試合を行いました。これは日本ボクシング界にとって衝撃的な出来事だったと思います。ただ、上記で述べた通り現在の日本ボクシング界は才能豊かな選手が多くいますので、西岡選手の後に続く選手が必ず出てくるでしょう。
この多くの才能豊かな日本人選手の中で、ラスベガスでの試合を熱望している村田諒太選手に私は注目しています。村田選手はご存じの通りロンドン五輪の金メダリストであり、鳴り物入りでプロのリングに上がりました。金メダリストの肩書きがある故、周りからの期待の大きさからのプレッシャーの中、3戦連続のKO勝利はまさに偉業といえます。長い間アマチュアボクシングに身を置いていた村田選手にとってプロの試合は相当違和感があり、難しいものであったと思います。というのも、アマチュアではプロで使われるような多様なパンチは使われません。的確に拳部分をヒットさせポイントを稼ぐアマチュアボクシングでは大きなフック等は「オープンハンドブロー」として減点対象となる事が多いからです。プロでは多様なパンチを得意とする選手が多いので、このパンチに慣れていない村田選手はその対応に相当苦労したはずです。プロ1戦目と2戦目はやはりプロ特有の大きなフックに苦しめられ、またアマチュア仕込みのストレート一点張りの攻撃が続いたため、かなり苦戦を強いられ2戦目は冷や冷やする試合となりました。しかし、3戦目のカルロス・ナシメント戦では何度か要所で大きなフックを有効に使い、元WBCラテン・スーパーウェルター級王者を終始圧倒しました。これは村田選手が真摯に厳しい練習に取り組み、プロの技術を習得した結果に他なりません。今後村田選手がチャンピオンになるにはボクシング史上最強のミドル級王者ともいわれるゲンナジー・ゴロフキン(アマチュア戦績345勝5敗、プロ戦績29勝(26KO)無敗)に勝たなくてはなりません。今後も村田選手の更なる成長と快進撃から目が離せません。
これから気候も暖かくなりビールがおいしい季節になります。これまでボクシングに興味がなかった方もこれを機会にビール片手にテレビの前で「スピードとタイミングの芸術」を観戦されてはいかがでしょうか?
毎月、職員達が交代でつれづれなるままに綴っております。