街を歩くとノーネクタイのワイシャツ姿のサラリーマンをよく見かけるようになりましたが、梅田等でもビアホールがオープンし、ビールのおいしい季節がやってきました。私は基本的にはビールと焼酎派なのでバーに行くことは少ないのですが、先日お客様におすすめいただいたバーに行ってきました。シェイカーでカクテルを作っているバーテンダーさんを見ていると、学生時代にレストラン&バーで雇われ店長をさせていただいていたことを懐かしく思い出しました。当時、お店を切り盛りする中で私なりに大変勉強になる経験をさせていただいたことがありましたので、ご紹介させていただきます。
私はカクテルを作ることと、人とお話しすることが好きだったので、出勤日はいつもカウンターに立ち、接客をしていました。常連さんも増え、それなりに売上に貢献し、店長としての役割を果たしていると自負していたある日、古株アルバイトの女の子が「新入社員の男性の仕事ぶりや態度が気に入らないので何とかしてほしい。」と相談してきました。
その新入社員は、過去にホテルでバーテンダーとして働いていたこともある経験豊富な方でした。その後他の社員やアルバイトを集めてその新入社員について尋ねると、全員が口を揃えて「あの人の仕事のやり方や態度が気に入らない。あの人を辞めさせてほしい。」などと非難しました。みんなの意見を聞き、私は彼に辞めてもらうことも視野に入れ、このことについてオーナーと話をすることにしました。
オーナーとはプライベートでも仲良くさせていただいていたということもあったので、私の意図を察し、「花谷君がそう思うなら辞めてもらっても結構だ。」と言ってもらえるものだと考えていました。しかし、オーナーは私の予想に反し、「なるほど。状況はよく分かった。辞めなければいけないのは花谷君の方だな。」と言いました。私はあまりにも予想外な答えにショックすら受けましたが、さらにオーナーは続けました。「問題の本質を従業員のせいにしたら駄目だよ。今店で起こっている問題によって店の雰囲気もお客様満足度も下がっている。この問題を放置しておけば近い将来間違いなく店の売り上げは下がるだろう。そもそも何故このような問題が起こったか分かるか?全ては従業員の管理もできない人間が管理職をしているせいだよ。管理職の仕事はカウンターでお酒を作ることじゃない。管理職の仕事というのは、店にいる従業員が最大限にモチベーションと能力を発揮して働ける環境としくみを作ることだよ。」
目から鱗でした。まさか自分が辞めるように言われるとは思ってなかったので驚きましたが、冷静になって考えると本当にその通りだと納得しました。
その後、オーナーにアドバイスをもらいながら
@ 人の得意分野・不得意分野・興味ある分野を確認したうえで仕事をいくつかに分け、
A 仕事の分担を徹底することとし、全員にやりがいを持って仕事をしてもらえるよう、それぞれの持ち場を任せて責任を持ってもらい、原則各人の仕事の線を越えて干渉しないようにすること(臨機応変に助け合うことはありましたが)、を徹底して環境作りを行いました。
その結果、従業員全員のコミュニケーションがうまくいくようになり、仕事もうまく回るようになりました。同じ人材でも活かし方によって大きく店が変わったことに大変驚いたことを今でも覚えております。
人は会社の財産であり、「会社の力=人財」だと思います。この厳しい経済環境の中、売上を増やす事や限界利益率を上げる事、固定費の削減等の努力は会社の経営を安定させるための手段として必要不可欠です。ただ、それ以外にも、社員の経験・能力・向上心等を100%発揮してもらえているか、またはそのような環境・しくみが社内で構築されているかどうかを今一度見直し、改善すべき点があれば改善するということも有効な手段だといえるのではないでしょうか。
税理士 花谷 隆之