北澤 沙紀

 今年も桜の季節がやってきました。お好きな方も多いと思いますが、私は毎年開花を心待ちにしており、どこかしこと出かけて行っては同じような写真をたくさん撮って何度も見返したりしています。
日程の都合でお花見に行けない時は近くの、出勤時に公園や道々に咲いているソメイヨシノを眺めて、それはそれで毎日心がウキウキとして良いものです。造幣局の桜の通り抜けには毎年必ず通っており、和桜の珍しい品種が一斉に開花している様子は中々見応えがあるので、午前中から出かけてもかなりの時間をそこで過ごします。

全長560メートルに渡って植樹されているそうですから、隅々まで見ている私は恐らく1キロ以上は歩いているのではないでしょうか。そして疲れてきたところで川沿いの屋台に座って散り始めた桜をもうしばらく眺めるというのが、恒例のお楽しみです。
 
 私事ですが、昨年の春、両親が突然「有馬温泉へ行こう」と言い出し、田舎から旅行を兼ねて出て来ました。せっかくならあの素晴らしい桜を見せたいと思い、大阪を経由する日程に変更して桜の通り抜けを案内しました。母はもともと植物や花が大好きなのでとても喜んでおりましたが、父は全体を見渡して気が済んだようであっさりとしており、後半はほぼ付き合いでついて来ている風でした。それでももう少し若いころであれば、「もう飽きた」「早く行こう」と言いだす性分の人でしたので、今ではずいぶん穏やかになったものだなぁと思ったりもしました。
昨年の開花の状態はとてもよく、私は『小手毬』や『虎の尾』などのふわふわとボリュームのある品種が特に気に入っていますので、若干天候に恵まれなかったこと以外は満足して見終えたことでした。

 それから予定通り有馬温泉へ向かったのですが、山の上のほうはまだまだ寒かったようで、和桜が咲くころには大抵散ってしまっているソメイヨシノがちょうど満開の体でちらほらと咲いており、川沿いではもう見られなかったので少し得をしたような気がしました。不思議なのが温泉街に着いて宿泊した旅館の目の前の枝垂桜が、ちょうど満開の見頃だったことです。今までに見たことがないような大きな樹で、背後の品種違いの桜と相まって建物の玄関口の半分ほどを囲むように覆いかぶさっており、その大きさも然ることながら風に煽られて花びらが散ったときのスケールの大きな美しさに、しばらく時間を忘れて見入りました。もちろん写真もたくさん撮り、家族旅行の思い出として大事に保存しております。最後には桜はもう見飽きたなどと贅沢なことを言いつつ帰宅したほどでしたので、今までで一番満喫した年だったのではないかと思います。
 
 花々を愛でる時間というのは中々贅沢な時間であり、ともすれば日々の目まぐるしさに追われて忘れてしまいがちではないでしょうか。せっかく四季のある日本に住んでいるのですから、時々は立ち止まって「春が来た!」「夏が来た!」と喜んでいたいものです。
こうして振り返っている内に昨年の浮き立つような気持ちが思い出され、今年はどこへ行こうかとまた一段とお花見気分が湧き上がってきました。開花情報と天気予報に目を光らせ、タイミングを逃さないようにしようと思います。