平成30年度税制改正で事業承継税制の要件が緩和され、同制度の事を耳にする機会が多くなったと思います。この制度についてはメリットのみ説明されている事が多いですが、デメリットも存在します。適用に当たっては「特例承継計画」の提出期限である2023年3月末日までの5年間で慎重に検討する必要があるでしょう。
事業承継といえば「株式の承継」ばかりクローズアップされがちですが、「組織の承継」も重要です。承継する組織は「継続可能な強い組織」でなくてはなりません。「強い組織作り」といえば、私は帝京大学ラグビー部の組織作りに興味を持っております。帝京ラグビー部は全国大学ラグビー選手権で前人未到の9連覇を果たしました。大学ラグビーでは選手が毎年卒業で入れ替わるため、9連覇はこれまでの常識を覆す偉業だといわれています。この偉業達成には帝京ラグビー部の画期的な組織作りが寄与しているといわれております。今回は帝京ラグビー部監督岩出雅之氏の組織作りをご紹介させていただきます。
帝京ラグビー部の組織作りのコアは「体育会系イノベーション(脱・体育会)」にあり、これまで体育会で常識だった「組織のピラミッド構造(下級生が上級生の雑用等の負荷を負う主従関係)」「センターコントロール型組織(指揮官の命令を部員がただ忠実にこなす組織)」からの脱却をいいます。帝京ラグビー部では部内の雑用(炊事・洗濯等)を上級生がこなします。これにより入部したてで本来なら余裕の無いはずの1年生は精神的・時間的余裕を持つことができ、1年生はその余裕を使い自身の現状分析や目標設定・人格形成に専念し、上級生の言動等から様々な事(組織文化等)を無意識に吸収・蓄積していきます。また、1年時から上級生より世話や愛情を授かる事で上級生やチームに対し共感・愛着が育まれ、そこから全体として余裕のある組織文化が生まれ、それが組織の活性化やモチベーション向上、チームワークの良さ、信頼関係・絆の強さにつながっていきます。チームへの愛着等が形成されることで、レギュラーになれない部員もチームへの貢献の為にサポート役等の自らの役割を喜んで全うするようになり、まさに部員全員の団結で組織の力が底上げされていきます。
また、帝京ラグビー部では、監督が命令して部員を動かすのではなく、部員が「なぜ必要か」を理解し、その気になるまで辛抱強く待つというマネジメントがなされています。さらに、選手同士のミーティングを頻繁に行い、上級生は「なぜ必要か」を気付かせるための質問を下級生に投げかけ、下級生はそれに対して回答・発言することになっております。上級生は質問を考える事で知識や理解のブラッシュアップができ、下級生は「なぜ必要か」を考えることで深く理解し、自ら考える習慣がつきます。これは大変時間と辛抱を要する手法ですが、徹底することにより如何なる状況下でも自主的に考え、学習し、行動する人材を育成することが出来ると岩出氏は述べています。
この様なことを実践し続ける事で、補欠選手も含めた全員が一丸となることが出来る「組織文化」や、自ら学習・改善をする「自立型学習組織」を築くことが出来き、これが「勝ち続ける組織作り」につながると岩出氏は述べております。
また、トップは「惰性」が生じない様、留意することも重要だと強調されてます。これを経営に置き換えると、「従業員の人格成長、本心レベルでの愛社精神の醸成」「強烈なトップダウンからの脱却」「トップの絶間ないイノベーション意識」といったとこでしょうか。勿論スポーツと経営では相違はありますが、興味深い手法なのでご紹介させていただきました。岩出氏は多くの著書を出しておられるので、参考にしていただければ幸いです。
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