今回は中小企業会計要領に準拠した決算書について紹介したいと思います。従来は多くの中小企業では、「法人税法上許容されている会計処理方法」(税法基準)で決算書が作成されていました。この会計要領は法人税法上許容されている会計処理方法を考慮しつつも、少なからぬ中小企業において必ずしも徹底されてこなかった会計処理について、一定の会計処理の実施を要求するものです。
中小企業会計要領の目的
1.経営者が活用しようと思えるよう、理解しやすく、自社の経営状況の把握に役立つ会計
2.利害関係者(金融機関、取引先、株主)への情報提供に資する会計
3.実務における会計慣行を十分考慮し、会計と税制の調和を図った上で、会社計算規則に準拠した会計
4.計算書類等の作成負担は最小限に留め、中小企業に過重な負担を課さない会計
以上の考えに立って作成することを目的とする。
本要領の利用が想定される会社は 金融商品取引法の規制対象会社及び会社法上の会計監査人設置会社以外の会社 つまり中小企業が対象です。
概要
1.継続性の原則
継続性の原則について、他の企業会計原則とは別に記載。会計処理の方法は、毎期継続して同じ方法を適用する必要性があり、これを変更するに当たっては、合理的な理由を必要とし、変更した旨、その理由及び影響内容を注記する。
2.国際会計基準(IFRS)との関係
安定的に継続利用可能なものとする観点から、IFRSの影響を受けないもの。
3.記帳の重要性
経営者が自社の経営状況を適切に把握するために記帳が重要である。記帳は全ての取引につき、正規の簿記の原則に従って、適時に、整然かつ明瞭に、正確かつ網羅的に会計帳簿を作成しなければならない。
具体的な作成基準
@貸倒引当金
原則
破産手続き等により債権が法的に消滅したときは、その金額を貸倒損失として計上する。
債務書の資産状況等から見て回収不能な債権については、その回収不能額を貸倒損失として計上する。
債務書の資産状況等から見て回収不能のおそれがある債権については、その回収不能見込額を貸倒引当金として計上する。
例外
法人税法上中小企業に認められている法定繰入率で貸倒引当金を計上する。
A棚卸資産の評価
原則として取得原価で計上する。
評価基準 原価法又は低価法
評価方法 最終仕入原価法、個別法、先入先出法、総平均法、移動平均法、売価還元法
時価が取得原価より著しく下落したときは、回復の見込があると判断した場合を除き評価損を計上する。
上記 経営者が回復の見込みがあると判断した場合は、評価損の計上は不要になります。
B有価証券の評価
原則として売買目的有価証券以外は取得原価で計上し事務負担の軽減に配慮している。
売買目的有価証券は時価で計上
時価が取得原価より著しく下落したとき(50%以上下落)、回復する見込があると判断した場合を除き、評価損を計上する。
C固定資産の減価償却の計算
取得原価で計上し 法人税法に定める償却方法、耐用年数により減価償却費を計上する。
D賞与引当金及び退職給付引当金
賞与引当金については、翌期に従業員に対して支給する賞与も見積額のうち、当期の負担に属する部分の金額を計上する。
退職給付引当金については、退職金規定や退職金等の支払に関する合意があり、退職一時金制度を採用している場合において、当期末における退職給付に係る自己都合要支給額を計上する。
中小企業退職金共済、特定退職金共済、確定拠出年金等、将来の退職給付について拠出以後に追加的な負担が生じない制度を採用している場合は毎期の掛金を費用処理する。
これら以外の会計処理については、税法基準が「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」であるかを個別に検討し、その枠内であると判断されれば、法人税法が規定する会計処理を採用することができます。
中小企業会計要領は、従来の税法基準を考慮しつつも時価が著しく下落した棚卸資産や有価証券の評価損の計上と、引当金の計上を要求し会社の負担すべき債務を洩れなく計上し決算書の品質を担保しようとするものです。中小企業会計要領に準拠した決算書は金融機関でも信頼されるもので、保証料や金利で優遇されます。決算書の末尾の個別注記表に中小企業会計要領に基づいていることを明記していますので一度ご確認ください。