当事務所では、毎年相続税申告をしています。相続税の申告までに、遺産分割をして相続人の税額を確定します。遺産の中に不動産があれば相続登記をするのが一般的ですが、相続税の申告が不要な方や分割協議が整わない場合、不動産の相続登記がされないまま放置されていました。
現在、所有者が不明な不動産が社会問題化しており、その土地の広さはなんと410万ヘクタール、九州の面積より広いそうです。
相続登記など不動産の権利の登記について現行法上は、いつまでに登記しなければならないといった期限の定めはなく、放置していても罰則のようなものはありませんので後回しにされてしまうことも多く、登記名義を亡くなった方のままにしている間に更なる相続が発生して、関係者がどんどん増えて収集がつかなくなり、結果、現在の所有者が誰であるか不明になってしまうという事態が起こります。
このような事態に対し、2021年4月21日に所有者不明土地問題の解消に向けた民法や不動産登記法の改正などが下記のように参院本会議で可決・成立し、2024年から施行される予定です。
1.相続登記の義務化
被相続人名義不動産について、相続人は自身が相続したことを知った時から3年以内に相続登記をしなければならなくなり、正当な理由なく相続登記を怠った場合は10万円以下の過料が科される予定です。
2.遺産分割協議の期限設定
遺産分割協議の期限を相続開始から10年と定め、10年を経過しても遺産分割協議が未了であれば原則として法定相続分に従って分割することになります。相続発生前に財産を多く貰っていた場合の特別受益や被相続人の財産の維持や増加に特別の貢献をした相続人に対する寄与分は考慮できなくなってしまいます。
3.相続人申告登記制度(仮称)の創設
遺産分割協議がまとまらずに速やかに相続登記ができない場合は、相続人であることを申告すれば相続登記をする義務を免れることができます。相続人申告制度を利用した場合には、法務局が登記簿に申告した相続人に住所や氏名などを記録します。その後、遺産分割協議がまとまったら、その日から3年以内に登記しなければなりません。
4.死亡者名義の不動産一覧を行政が発行
現在でも市区町村役場で名寄帳という固定資産税が課税されている不動産の一覧を取得することができます。ただし、私道など固定資産税の課税されていない土地の記載がなかったりすることもあるので、名寄帳だけで被相続人の全ての不動産を把握することはできない場合があります。その為、権利証や判明している土地の周辺登記簿を調査する必要があるのですが、法改正後は法務局で死亡者名義の不動産の一覧を発行してもらえることになります。
5.住所変更登記の義務化
個人や会社の氏名や住所・商号や本店所在場所が不動産登記簿上から移転等して変更された場合に、2年以内に住所変更登記をしなければ5万円以下の過料が科される予定です。なお、法務局が住民基本台帳ネットワークや会社などの法人情報管理システムから変更を把握した時は、法務局の判断で変更登記ができるようになるとのことです。
6.所有者の生年月日や海外居住者の連絡先の提供
新たに不動産を取得する人(法人以外)は、登記申請の際に生年月日の提供を求められることになります。登記簿上は住所氏名のみの記載となっていますが、生年月日も登記されるかというと、そういうことではなく、法務局内部のデータとして扱われるようです。なお、法人に関しては、会社法人等番号が不動産の登記記録にも記載されることになります。
新たに不動産を取得する人が、海外居住者の場合には、国内の連絡先となる人(法人含む)の住所や氏名などの登記が必要になります。連絡先となる人は第三者でも大丈夫なのですが、その人に承諾が必要になり、かつ国内に住所のあることが要件となります。
7.土地の所有権放棄
建物が建っていないことや土壌汚染が無いことなどいくつか要件はあるのですが、放棄可能要件を満たしていれば、法務大臣に国庫への帰属させることについて承認をもとめて認められた場合は、所有権を放棄することが可能となります。ただし、相続人が審査手数料と10年分の管理負担金を納入しなければならないようです。
意外と田舎の土地が、相続登記せずそのままになっていることが多いと思います。5月に市役所から送られてくる固定資産税の納税通知書に、亡くなられた方の名前が記載されている事があります。そのような場合、一度謄本を取り寄せる事が大事ですね。謄本を取り寄せる事が分からない場合や遠方の場合は、当事務所にご相談ください。