代表社員 福田 重実

 今年に入って日銀が初めてマイナス金利政策を実施しました。金融機関が、日銀にお金を預けると手数料を取られることになるので、ゆくゆくは私たちの預金も手数料を取られるのではないかと不安になった方もおられるのではないかと思い、マイナス金利についてご紹介したいと思います。

1.マイナス金利の意義
通常、銀行に預金すると、微々たるものですが利子が付き少しずつ増えていきます。これが、マイナス金利になると、預金している分の利子を、銀行へ払わなければならなくなります。これがマイナス金利です。と言っても今回の「マイナス金利」は日本銀行と各金融機関における金利の話であって、我々が利用する銀行の預金利子が、ただちにマイナスになるというわけではありません。各金融機関は日本銀行に口座を持っており、お金を預けています。今、預けている分には、これまで通り金利は付きますが、これから新規で預ける分についてはマイナス金利(-0.1%)が適用されます。

2.マイナス金利導入の影響
金融機関は、日銀に預けていると利子が付くどころか利子を支払わなくてはなりません。それなら日銀にお金を眠らせておくよりも、企業へ貸し出して金利収入を得たり、他の投資に回したりしようという動きになるわけです。つまり、市場にお金を出回らせて、企業の設備投資と賃上げを後押しし、景気を刺激しようということです。最終的に、日銀は目標である物価上昇率2%に近づけていきたいという意向があるわけです。アベノミクス3本の矢の1本ですからね。

3.世界的な傾向
昨年12月、アメリカの利上げが話題になりました。利上げは、今回日銀が取った政策とはまったく逆方向の金融政策です。市場から少しお金を引き上げて、景気にブレーキをかけようとする政策です。つまり、アメリカは今非常に景気が強いのです。
そんなアメリカに対して、欧州は日本と同様に金融緩和を続けています。今回の日銀政策会合の直前に、ヨーロッパの中央銀行であるECBが金融緩和を発表したことにより、年初から続いていた原油安と中国市場の混乱による世界同時株安の進行に歯止めがかかりました。

4.我々の生活に与える影響
日銀と金融機関との間でマイナス金利になったということは、少なからず我々と金融機関との間の金利にも影響してきます。すぐにマイナスということにはなりませんが、これまでより引き下げられ、将来的にはマイナスになることもあるかもしれません。具体的には、住宅ローンや自動車ローンの金利は、さらに低くなり預金利子の金利も低くなる可能性があります。

5.企業業績への影響
各企業にとっても大きな影響があります。この金利変動は、良い影響を受ける業界と、厳しい環境に立たされる業界があります。

まず、基本的に銀行経営は苦しくなります。金利が低くなり、金利収入が減少するのであれば当然のことです(しかし、銀行は日銀からも借入をしているので、その利子がなくなると考えれば良い面もあります)。今回の発表を受けて、銀行株は軒並み下落しました。
逆に良い影響を受けるのは、不動産業界です。住宅ローンの金利が下がるのであれば、住宅ローンを組みやすくなり不動産の販売がスムーズになります。
さらに、観光業界や航空業界にとっても良い環境になります。金利の引き下げというのは、円安に繋がるからです。円を持っていても金利が付かないのだから、たくさん持っている人は他の通貨に両替したり、円で持っていても仕方がないので円を売り円安になります。実際、年明けから円高傾向にあった為替が一気に120円を大きく超える円安方向への動きとなりました。円安になれば、今流行のインバウンド需要で、海外からの観光客が増えます。そのため、観光業界や旅行業界、爆買いによる流通業界も現状のように良い環境が続くと思われます。

6.今後のマイナス金利の動向
今回、マイナス金利を実行した黒田総裁は、今後どのような金融政策を打ち出してくるのでしょうか。一度マイナスに突入した金利は、さらなる引き下げがあるのか?
元日銀副総裁の岩田氏の話では、現金通貨(いわゆるタンス預金)で持つコストは、大体2%ぐらいだそうです。現金で持っていると、盗難や紛失のリスクがあります。そう考えると、2%ぐらいまでは可能性的にあるのではないか、と話していました。今がマイナス0.1%ですから、まだまだマイナス金利の幅は有ります。日銀は物価上昇率2%の目標を、2016年後半から2017年前半へと後ろ倒しにしました。黒田総裁は、この目標をなんとしてでも達成しようという強い意識があるように思います。

7.おわりに
以上のように考えると、物価上昇が継続し景気が良くならない限り、当分の間はこのマイナス金利政策は続くと思います。また、来年実施される消費税増税により物価は一時的に上昇しますが、増税による景気の衰退の可能性がありますので、金利が上昇する可能性は低いと思われます。低金利時代は、借入金の借り換え等をして調達金利を低くするとか、個人でも住宅ローンの借り換え等をして金利負担を削減したいですね。