代表社員税理士 福田重実
今回は即時償却の会計処理について紹介します。
即時償却とは、取得価格を全て減価償却費として一時に費用処理することで、会計処理としては通常償却+特別償却=取得価格 となることです。
つまり1千万円の設備を取得して即時償却に該当すればその1千万円が全て減価償却費として費用処理することになります。するとその資産の簿価円として貸借対照表に計上されないことになり、また償却前の利益が1千万円未満だとすると当期利益が赤字になってしまいます。すると対外的には赤字決算となり法人税は0円になりますが企業評価は下がってしまいます。そこで以下の会計処理方法を紹介し最適な会計処理を検討したいと思います。
@特別償却の考え方
特別償却による償却額は、正規の減価償却手続によって費用配分されるものではなく、租税政策上の優遇措置として損金算入される項目ですから、会計上の損益計算の観点からは費用性が認められないと考えられます。
A会計処理の方法
償却前利益が800万円で1千万円の機械を取得し通常償却3百万円 特別償却7百万円を適用した場合
(a)通常方式 常の減価償却と同じように処理する方法
償却費として費用に計上し、資産の帳簿価額を減額。損金経理により、減価償却費・特別償却費として処理し、帳簿価額より減額する。
(借)減価償却費 10,000,000 (貸)機 械 10,000,000
又は(借)減価償却費 10,000,000 (貸)減価償却累計額 10,000,000
当期利益 8,000,000−10,000,000=△2,000,000 (課税所得△2,000,000)
機械の簿価 10,000,000−10,000,000=0
(b) 準備金方式
通常の減価償却計算から切り離して特別償却を処理する方法償却費として費用に計上し、特別償却準備金(負債)として積立てる。損金経理により、減価償却費・特別償却費として処理し、特別償却準備金として積み立てる。原則として7年間にわたって均等額を取り崩し益金に算入される。
(借)減価償却費 10,000,000 (貸)特別償却準備金 (負債) 7,000,000
機 械 3,000,000
当期利益 8,000,000−10,000,000=△2,000,000(課税所得△2,000,000)
機械の簿価 10,000,000−3,000,000=7,000,000
(c) 利益処分方式
特別償却費を損益計算上の費用に計上しない方法剰余金処分により、利益剰余金の特別償却準備金(純資産)として積み立てる。 準備金方式と同様に、原則として7年間にわたって益金に算入する。
(借)未処分利益 7,000,000 (貸)特別償却準備金(純資産)7,000,000
減価償却費 3,000,000 機 械 3,000,000
当期利益 8,000,000−3,000,000=5,000,000
(課税所得5,000,000−7,000,000=△2,000,000
機械の簿価 10,000,000−3,000,000=7,000,000
どの会計処理でも課税所得は同じになります。しかし、特別償却を損益計算書に費用として計上する上記の(a)と(b)の経理処理には、企業会計上、疑問が残ります。貸借対照表に計上する数字に関しても、(a)の処理によれば、固定資産の残高が「相当の償却」を行った後の評価額といえるのかどうか(簿価が0円)、また、(b)の処理で計上される「特別償却準備金」の科目に果たして負債性があると考えられるのかという点で、いずれも商法上の疑義が残ります。
企業会計上は、特別償却は損益計算とは関係なく利益処分により行うのが正しいと考えられており、貸方科目の特別償却準備金は、資本の部に「任意積立金」の一種として計上するのが妥当です。税務上も企業会計の考え方を尊重し、利益処分により特別償却を行った場合でも、償却限度に達するまでの金額は損金に算入することとしています。
実務的には、中小企業では特別償却も通常の償却と同じように、上記の通常方式((a))で処理しているケースが多いようです。ただ、即時償却をすることはそれ以降償却費がなく一時に費用が計上され以降に費用が発生しないこと及び高額な資産が簿外になることを考慮すると利益処分による会計処理が妥当であると考えられます。利益処分方式で経理する場合には、特別償却の金額が損金経理されませんから、申告書の別表4で減算することになります(この場合7,000,000円)。
B特別償却準備金の取崩し
準備金方式または利益処分方式で経理した場合には、通常の減価償却計算とは別枠で特別償却をしますから、耐用期間全体の普通償却額だけで取得価額の95%相当額が費用化されます。
ところが、この場合も税務上は上述の特別償却の本質(課税の繰延べ)に変わりはありませんから、初年度に損金算入された特別償却の金額が、翌期から7年間(耐用年数が10年未満である場合、5年又はその耐用年数の何れか短い年数)で均等額ずつ益金に算入されることになっています。したがって企業会計上、初年度に設定した特別償却準備金を翌期から取り崩さなければなりません。なお、特別償却準備金の取崩し計算は、設定した事業年度別の準備金ごとに区分して行います。
【算式】特別償却準備金のうち損金算入された金額× 当期の月数/84 =益金算入額
7,000,000×12/84=1,000,000
当事務所では即時償却をする場合は利益処分による準備金方式で当期利益を減少させることなく申告所得を減少させる会計処理をすることとしています。